「資産は十分」でも住宅難民と化す高齢者が急増中…!「日本には借りられる家がない」というヤバすぎる大問題

高齢化が進む一方で、歳をとればとるほど賃貸住宅を借りづらいという現代社会の大問題。
【マンガ】マイホームは「持ち家」か?「賃貸」か?ついにその「答え」がわかった…!
前半記事『医者家系の資産家でも拒絶300件…! 「高齢者の4人に1人」が家を借りられないヤバすぎるニッポンの大問題』に引き続き、高齢者の賃貸探しで何が起こっているのか、親や自分自身の老後の住処を守るためにどうすればよいのか紹介していく。
「ここで不動産会社は5件目で…」

2015年、私が前職の不動産会社で働いていた頃、80代の女性のお部屋探しを手伝ったことがある。その方は開口一番にこう言った。
「ここで不動産会社は5件目なんです…。他はすべて門前払いでした」
正直なところ、不動産業界では高齢者を断ることが当たり前の慣習だったため、私自身も最初は断ろうとした。
だが、真夏の暑い日に何件も不動産会社を回っている様子を見て断ることができず、結局、約200件の電話をかけた。しかし、そのうち高齢者が入居可能な賃貸住宅はたったの5件しかなかった。
この時の経験が「R65不動産」を起業したきっかけとなっているのだが、高齢者が賃貸を借りにくい理由としては、「孤独死による事故物件化のリスク」や「収入の不安定さ」、「保証人の不在」、「認知症による家賃回収の懸念」などが挙げられる。
なかでも「入居後のトラブル」への不安が大きいようだ。実際に高齢者を受け入れたことのある不動産会社による調査では、入居後のトラブルで最も多かったのは「孤独死による事故物件化(56.25%)」だった。
また、不動産会社や物件オーナーが、高齢者を賃貸住宅に受け入れた経験がないことも改善されにくい大きな問題となっている。前例がないため、「なんとなく怖い」といった漠然とした不安があるのだ。
住まいがなくなる不安から……

他の事例も紹介しよう。約1年前のこと、60代のある女性は、現在の住居に満足していたが、突然立ち退きを強いられる事態に直面した。ある日、彼女からお部屋探しの電話がかかってきたが、非常に高圧的な態度だった。
彼女は15年ほど暮らしていける貯金も保有しており、さらに年金もあったにも関わらず、年齢だけを理由に急な立ち退きに遭遇した。
「なぜ引っ越さなければならないのか」という不動産会社に対する怒りと、立ち退きの期限が迫っていたことに対する焦り、「ここで最期まで暮らしたかった」という悲しみが混ざり合って、高圧的な態度になっていたのだ。
結果的には、彼女と一緒にいくつかのお部屋を見て回り、無事引っ越し先を見つけることができたが、部屋が決まった際に、安堵で涙を流しながら「力になってくださり助かりました」と言っていただいたことが印象的だった。
立ち退きを強いられ、突然住まいがなくなる経験を通じて、高齢者が抱える不安の大きさを実感したのである。
老朽化物件は370万戸!

また現在の日本では、築35年以上の建物が約1300万戸あることが分かっており、築40年以上の賃貸住宅だけに絞ると約280万戸にのぼる。鉄筋コンクリートの建物はさらに長い年月での活用が可能だが、木造建物の場合、大きな地震による倒壊の恐れや隙間風、そのほか経年劣化による修繕箇所が増えるため、50年程度でほとんどが建て替えられる。
この老朽化物件に住んでいる確率が最も高いのが、まさに高齢者である。
実際に、R65不動産でも「立ち退き」を理由としたお部屋探しの相談が急増している。本人からの問い合わせが最も多いが、行政やNPOから相談をいただくこともある。不動産会社からの立ち退きにあった高齢者は、今まで何気ない日常を過ごしていたにもかかわらず、ある日突然、住まいが無くなってしまうことになりかねない。
高齢者が賃貸住宅を借りにくい状況は2023年現在もなお続いているが、先に述べたように、彼らは学生やファミリー層と異なる住まい探しの条件を持っていることが多い。その点に着目すれば、高齢者を受け入れることが空室対策につながる可能性もある。
不動産会社や物件オーナーは、高齢者のニーズに対応することで、住宅難民となる可能性の高い高齢者に賃貸住宅を提供し、同時に自身の事業にもメリットが生まれるだろう。今後は、高齢者の受け入れを積極的に検討していくことが求められるべきである。
親や自分自身の老後を守る賢い対策

周囲で賃貸住宅を借りた高齢者が少ないことから、なかなかイメージがつきにくく、高齢になってから苦労してしまう人が多い。しかし、適切な準備を行えば、65歳以上でも自分や親御さんが住まいを選べる状況が整いやすい。
最後にその点について解説する。
まず、親子間で住まいに関する話し合いを行い、希望や懸念事項を共有しておくことが重要だ。次に、当たり前ではあるが、子世代は自身と親の資産計画を早期に立てることが求められる。また、賃貸契約には保証人が必要であることが多いため、子どもが親の保証人になるか、単身の場合は適切な保証人を確保しておくことが大切だ。
さらに、各地域には地域包括センターや都道府県の指定を受けた居住支援法人と呼ばれる高齢者などの要配慮者をサポートする民間企業がある。何か困ったことがあれば、気軽に住まいに関する相談をするべきだ。
まだまだ高齢者は賃貸住宅を借りにくいが、孤独死を防ぐための見守りサービスや万が一のための孤独死保険など、物件オーナーや不動産会社の懸念を解決するサービスも増えている。
まずは、自分自身ができることとして、今後の住まいに関する準備を進めていくことで、最低限、老後に安心して暮らせる住環境を整えることに繋がるだろう。
山本 遼(株式会社R65 代表取締役)
