闘病の子見守りながら働ける場「人生をあきらめる必要ない」…療育施設の隣で着物リメイク

ワークスペースで愛甲さん(右から2人目)の指導を受けながら着物をリメイクする母親たち。子どもたちは奥の部屋で療育を受けている(4月14日、宮崎市で)=谷口京子撮影
母親たちが仕事をする傍らで、日常的にたん吸引などが必要な子どもたちを見守れる。そんな施設が宮崎市に開設され、通院や介護に時間を取られて仕事を制限されていた母親たちを後押ししている。つくったのは、当事者の娘がいる同市の愛甲晃子さん(54)。親子が孤立せず、社会とつながれる場を目指している。(谷口京子)
4月中旬、宮崎市のワークスペース「RIPPLE(リップル)」。3人の母親がミシンに向き合い、古い着物を再利用してシャツやコースターなどを縫い上げていた。3人は時折、作業の手を止め、ドア1枚隔てた隣の部屋に目を向ける。看護師に預けた子どもの様子を優しく見守ると、作業へと戻った。
隣室にある多機能型事業所「Peace(ピース)」では、看護師や保育士らが支援を必要とする「医療的ケア児」の療育を行っている。どちらも2022年12月に愛甲さんが代表を務める一般社団法人「RIPPLE」が設立した施設で、子どもを預けた保護者がすぐ隣のスペースで仕事ができるのが特徴だ。
愛甲さんが設立を思い立ったのは、自身の経験があったからだ。長女の花菜さん(20)は生後5か月で人工呼吸器が必要となり、1歳の時、生まれつき筋力の弱い難病「先天性ミオパチー」と診断された。たんの吸引などで片時も目が離せず、小学校入学後は人工呼吸器の管理が必要で、愛甲さんは毎日同行して別室で待機する日々を送った。
小学校の臨時教員や飲食店で働いた経験もあったが、仕事は諦めていた。「ケアをするだけで、私の人生は終わるのかな」。社会とのつながりが感じられず、孤立感が募っていった。
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09年に参加した人工呼吸器の患者会で、学業や就労に挑戦する当事者や家族の姿を目の当たりにした。「娘だけでなく、私も人生を諦める必要はないと教えてもらった」。その年、宮崎で医療的ケア児の保護者が情報交換できる親の会を設立し、県や市に対して支援の充実を求めた。
着物のリメイク教室にも通い、学校で待機時間にミシンを持ち込んで手芸の腕を磨いた。手がけたワンピースやシャツの評判が広がり、18年には「キモノリメイクカンパニー アコ」を起業。親の会有志が介護の合間に着物をほどく作業などを手伝うようになり、親が一緒に働ける場をつくりたいと思うようになった。
会の活動がコロナ禍で制限されたことも、愛甲さんの背中を押した。「人と人が疎遠になってしまう世の中だからこそ、家族が社会とつながれる拠点が必要」と施設の開設を決めた。
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現在は、医療的ケア児を育てる母親4人がワークスペースを利用している。全員が個人事業主で、同法人が受託した着物リメイクや洋菓子店からの菓子のラッピングなどを各自が請け負う形態を取っている。

闘病の子見守りながら働ける場「人生をあきらめる必要ない」…療育施設の隣で着物リメイク:地域ニュース : 読売新聞
絵本を読んでもらう里珈さんの様子を隣室から見に来た母親の松本さん(左)(4月14日、宮崎市で)

市内の松本美里さん(48)は、長女 里珈りか さん(12)が3歳の時に「低酸素性虚血性脳症」を発症して人工呼吸器の生活になり、仕事を辞めた。施設と出会い、「娘の存在を感じられ、安心して働ける」と笑顔を見せる。
ウエスト症候群という重いてんかんを発症した長女 和奏のどか さん(16)を育てる同市の川畑美江子さん(48)は社会とのつながりを実感している。小物や洋服を購入する人が施設を訪れて会話する機会もあり、「『色合いがすてき』などと言ってもらえて自信になった」と話す。
今後はワークスペースにパソコンを導入し、事務作業など仕事の幅を広げていく計画だ。愛甲さんは「社会とつながりを持ち、親が笑顔になれば、子どもたちも明るくなる。挑戦を支え合える場にしていきたい」と意欲を見せる。
「望む仕事就けず」7割強
医療的ケア児は全国で約2万人(2021年)いるとされ、医療の発達により、10年間で約1・4倍に増えた。ただ、受け入れ態勢の整った保育所や学校などは限られており、家族への支援は十分ではない。
厚生労働省が2019年に実施した実態調査では、回答した家族742世帯のうち7割強が「希望する形態で仕事に就けていない」とし、就労の難しさが浮き彫りになった。「保育園が見つからずに離職せざるを得なかった」「仕事に就けず経済的に余裕がない」といった声も寄せられた。
21年9月には医療的ケア児と家族を支える支援法が施行され、適切な支援を受けられる環境づくりが国と自治体の責務となった。福岡、佐賀などの首長有志は支援サービスの向上に向けたネットワークを今年11月に設立する。

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2023年5月13日RT(14)
見 守(KEN MAMORU)

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