副業起業 全社員が「二足のわらじ」 本業の知見結集 副業時代 そろり船出

ジョージ・アンド・ショーンは井上憲社長(右)が副業として起業
企業が従業員に副業を認める動きが広がっている。生産性向上を目指す政府の方針もあり、副業は産業界の大きなテーマだ。全員が副業として関わるスタートアップが登場するなど産業の新陳代謝への期待が高まる一方、大手企業の本格活用はこれから。労働法制の見直しも道半ばだ。来るべき「副業時代」の到来に備え、各社の試行錯誤が始まっている。
東京・渋谷のマンションの一室。毎週木曜日の午後7時30分から続々と人が集まる。ネットを活用した高齢者の見守りサービスを展開するジョージ・アンド・ショーンのメンバーだ。2016年に同社を立ち上げたのは日本オラクルに勤める井上憲社長。井上氏だけでなく、参画したメンバー全員が副業者だった。
本業はキヤノンや米ソフトウエア大手など多彩で、それぞれの技術やノウハウを生かしてサービスの普及と改善を進めている。「AI(人工知能)の解析精度はこれで十分か」「ここは改良の余地がありそうだ」。毎週の議論は熱を帯びる。
大手企業の社員がなぜ副業としてスタートアップに集まるのか。「本業を持っているからこそ、目先の利益にとらわれずに長期的に事業を育てられる」と井上氏は副業起業の利点を語る。先端技術を活用し、人々が健康で長生きできるヘルスシティの実現を目指す。
日本型雇用の枠組みが崩れる中、副業が生産性向上の切り札として注目を集める。政府も6月に閣議決定した「成長戦略実行計画」で副業の拡大を掲げた。幅広い人材を集め新しい事業に乗り出すスタートアップが副業活用で先行する。

女性向けのスマートフォンアプリを開発するユニック(東京・渋谷)も若宮和男社長をはじめメンバー10人の全員が副業者。NTTドコモやディー・エヌ・エーの社員もいる。若宮氏は「優秀な人が外で活躍し、一人ひとりの働く価値を高めていくことが今後はより重要になる」と語る。
スタートアップ企業の多くは立ち上げ時に「信用」が壁になるが、大手企業の肩書があればそれを補うことができる。副業の広がりは新たな起業の可能性を秘める。
終身雇用と自前主義にこだわってきた大手の多くは、自社の人材を外部に出すことや、他社の人材を受け入れることに慎重だった。だが自社では賄えない即戦力を確保するため、副業に活路を見いだす動きも出始めた。
「フルタイム勤務が難しい優秀な外部人材を取り込み、事業変革や新規事業創出につなげたい」。SCSK人事企画部の酒井大介部長はこう話す。同社は自社の社員に副業を認めるだけでなく、他社の社員を副業として受け入れる「スマートワーク・プラス」という制度を1月に導入した。
例えば、データサイエンティストなどIT(情報技術)に精通した人材に週2回程度勤務してもらい、自社の技術者との協業で知見を生かしてもらうことを想定する。
日本経済新聞社が3月末~4月上旬に東証1部上場などの大手企業に実施したアンケート調査(121社が回答)で、副業の利点は「社員の成長やモチベーション向上」が76.6%、「自社の新規事業開発や本業の強化」が44.7%となった。
18年4月に副業制度を導入したユニ・チャームでは、高齢者用オムツの開発を担当する20代の男性社員が高齢者施設で介護の仕事に就く。「実際の介護に関わることで、開発の課題や改善点を理解できる」ためだ。
男性社員は若手ながら、開発チームの中で現場の「ご意見番」となっている。男性社員の発案で、現場の負担を軽くするオムツのテスト方法が導入されるなど製品改良にもつながったという。

■高まる関心、就業は遠く
267万人と2200万人――。副業の理想と現実が2つの数字から浮かび上がる。前者は総務省の調査で明らかになった副業をしている人数。後者はみずほ総合研究所が推計した潜在的に副業を希望する就業者の数だ。働く人の関心は高まっているが、実際に始める人は限られる。副業を認める企業の多くも消極的な容認にとどまっているのが実態のようだ。

「社員の労働負荷が増大する」(大手商社)
「本業がおろそかになる恐れがある」(大手サービス業)
副業解禁の動きが広がりつつあるとはいえ、容認派の企業からも懸念の声があがる。必要な法整備や規制の見直しもいまだ十分ではなく、「会社にとってリスクが大きい」(大手住宅メーカー)といった本音も漏れる。
副業関連サービスを手掛ける企業の関係者は「副業を認める企業の多くはあくまで『消極的容認』。制度を導入して本格的に推奨している事例は一部では」と指摘する。
ただ、副業が解決の糸口になる課題は少なくない。デジタル化やグローバル化に見舞われている企業は、新たなイノベーションを生み出すために社員のスキルアップや多様な人材の活用が避けて通れなくなっている。
人手不足への対応に加え、希望する人が70歳まで働く未来も視野に入り始めている。中高年が他企業に再就職したり、起業したりする動きを促すためにも副業の重要性が増すという見方もある。
法制度などが十分に整わなくても、一部企業や働き手は副業にかじを切り始めている。リクルートワークス研究所の萩原牧子・主任研究員は「生産性向上へ副業をどう活用するか、突っ込んだ議論が必要」と指摘する。

2019年7月11日RT(236)
見 守(KEN MAMORU)

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