東電スマートメーター相次ぐ発火、2つの原因判明

住宅に設置されたスマートメーター
東京電力ホールディングス傘下の送配電事業者、東京電力パワーグリッド(PG)が2020年度までに全顧客に設置を進めるスマートメーター(次世代電力計)でこれまでに28件の発火事故が起きた。2つの原因が重なり、対策にてこずった。同社は約8万8000台の対象機種について交換を進めている。
■部品損傷と別の原因も
東電PGは18年11月19日、東光東芝メーターシステムズ(埼玉県蓮田市)が製造したスマートメーターの不具合によって機器内部で発火が起きていたと初めて発表した。前日付の東京新聞で「事故や不良品について公表していない」と報道されたのを受けたものだった。
東電PGは東光東芝製のスマートメーターについて、「17年後半から顧客に余計な心配を掛けないよう個別に通知して交換作業を進めていた」(業務統括室)と説明する。発表時点で火災と認定されたものが16件あったという。
ところが東電PGは翌月の18年12月1日、発火事故には別の原因もあると公表した。茨城県つくば市で11月30日午後2時ごろに屋外に設置してあるスマートメーター付近から出火が1件確認されたと発表したのだ。当該機器は東光東芝製ではなかった。
東電PGはその4日後の12月5日、つくば市の出火事故については原因を調査中としながらも、施工不良の可能性が高いと公表した。同時に16年5月から施工不良が原因と推定される設備損壊が3件、火災と認定されたものが3件の合計6件の発火事故を確認したと明かした。
19年に入っても東光東芝製によるものではないスマートメーターの焼損を5件公表した。2月25日には千葉県銚子市で、4月3日にも東京都練馬区で屋外に設置するスマートメーターの焼損がそれぞれ1件確認されたと発表した。
東電PGは東光東芝製以外の焼損の原因はまだ調査中とするが、いずれも施工不良の恐れが高いという。建物への延焼や負傷者といった被害はないものの、公表資料には「お客さまには、ご心配をおかけし申し訳ございません。原因究明に努めて参りますので、ご理解賜りますようよろしくお願いいたします」との文言が並ぶ。
東電PGによるこれまでの発表などをふまえると、スマートメーターの発火の原因は2種類あったことになる。1つはメーカーの製造工程で電子部品が損傷し、基板の一部が発熱するものだ。もう1つは委託した工事会社の施工不良による発熱だった。発火事故の原因が2つあったため手間がかかったとはいえ、対応が後手に回った感は免れない。
■IoT期待の星
スマートメーターは通信機能を搭載し、30分ごとに電力の消費量を把握できる。16年4月に電力小売りの自由化が一般家庭にも拡大したのを受けて、全ての電力会社が20年代初頭までの計画で全戸設置を進めている。東電PGは20年度までに約2900万台を設置する計画だ。19年4月現在で7割超に上る約2100万戸への設置を終えたという。
スマートメーターは電力使用量を的確に把握できるだけでなく、検針や送電停止・再開といった人手のかかる作業のコストを削減できる。利用者にとっても契約内容の変更などの手続きが簡略にできると期待されている。
スマートメーターが普及してデータを安全に活用できるようになれば、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)を使った一人暮らしの高齢者の見守りサービスや、利用者の在宅時間を予測して宅配業者の配送ルートを決めるサービスなども可能になる。スマートメーターはいわば、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の期待の星だ。
東電PGは18年11月に、NTTデータや中部電力、関西電力と組んで「グリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合」を設立。電力消費データの活用に向けて動き出したところだった。こうしたタイミングでなぜ出火が相次いだのか。
■東光東芝、製造工程でひび割れ
東光東芝製スマートメーターの不具合は、15年3月から16年9月までに製造した2種類のスマートメーターの組み立て工程で起こった。セラミックコンデンサーなどをはんだ付けした電子基板を専用工具で取り付ける際に、手作業で押し込む圧力によって基板が変形してセラミックコンデンサーにひび割れ(クラック)が入った。
セラミックコンデンサーはスイッチの遮断時に生じる高電圧などノイズを吸収する保護回路に組み込まれている。セラミックコンデンサーが正常に動作しなかったため、直径7ミリメートルほどの焦げ跡や異音が相次いで生じた。
実は東光東芝は18年3月の時点で東京電力パワーグリッドに約2万4000台に及ぶ対象機種の交換を申し入れ、既に約8000台の取り換え工事を進めていた。このうち焦げ跡が16台、異音が約200台で発生していた。それでも東光東芝は「部品には難燃性の部材を使用しているため発熱が火災につながるようなことはない」としていた。
ところが調査を進めた結果、対象機種が大幅に増加した。東光東芝は18年12月26日に交換対象となる機種が中部電力の管内に設置した分を含めて約9万7000台に上ると発表した。
東京電力パワーグリッドは対象顧客にダイレクトメールで通知して19年中に対象となる全数を取り換える予定だ。東京電力パワーグリッドは交換作業の人員の手配を進めるが、交換の費用はすべて東光東芝が負担する。現在のスマートメーターの製造工程は同じ部品を使わない設計に変更したため、対象となった製造期間より後のスマートメーターに不具合はないという。
事態を複雑にしたのは東光東芝製のスマートメーター以外にも発火が発生したことだ。
東京電力パワーグリッドは19年4月現在でスマートメーターの設置を28社の工事会社に委託している。スマートメーターは底部の穴に単相三線式と呼ばれる電力の引き込み線を挿入してビスで留める箇所がある。留める場所によって200ボルトか100ボルトの電圧を設定できる仕組みだ。
■ネジ締め施工不良も要因
ところが設置の際に作業者が引き込み線を接続するビスを締め付けねじでしっかり固定していないと、断線や接触不良が起きて導通抵抗と呼ばれる値が大きくなって発熱する。焦げ跡が生じたり場合によっては炎が発生したりしてしまう。
東電PGは18年12月につくば市で屋外に設置してあるスマートメーター付近からの発火が確認されたという発表の後、同年12月25日に経済産業省に対して電気事業法に基づき7件の出火事故があったと報告した。原因究明をした結果、7件全てがスマートメーターの端子部の締め付けネジの締め付け不足や緩みなどに起因する放電によって、発熱や焼損に至ったと推定されるとした。
同社は取り付け済みのスマートメーター5200台について18年12月21日から19年1月末まで抜き取り調査をした。7件の施工不良にかかわった作業員が施工したスマートメーターについては、19年3月末までに全施工数の10%に当たる約3000台を追加調査すると発表した。
工事完了後に端子部の締め付けねじの状態を抜き打ちで現地確認する品質検査を追加したほか、施工時にスマートメーターの登録や確認をする作業者のデータ収集端末に、端子部のねじをさらに締め付ける確認作業をしたかチェックする画面を追加。チェックをしなければ次に進めないようにした。
同社によると「スマートメーターの取り付け工事は個別に管理していて、誰がどのスマートメーターを付けたか全部把握している」(配電部)。7件の発火事故があった場所に取り付けた作業員は特定しており、同じ作業員が取り付けたスマートメーターを重点的に調査したという。19年4月の段階で調査は既に終了。「原因を特定しないと対策を取れないので現在集約して分析している。時間を掛けずに早く対策を打つ」(同)と説明する。
■人間のミスが落とし穴
東電PGはスマートメーターを取り付ける委託先工事会社の延べ約600人の作業者に従事者証と呼ぶ証明書を持たせている。作業手順について座学と実技の研修を受けてテストに合格した者しか証明書はもらえない。年3回程度は工事会社の管理者を集めて安全品質連絡会などの会議を開き、施工不良による災害事例の注意喚起などの周知もしていた。
同社は「取り付け作業そのものは高度な技術を要するものではなく、あくまで作業者の意識の問題に尽きる」(同)と話す。
ただ、作業者が取り付ける台数は膨大だ。一般の利用者に対して「接触が悪いと電気にちらつきがあったり家電製品が一部使えなかったりする。異音や電気のちらつきとかがあったときは、速やかに業者に連絡をしてほしい」(同)と呼びかけている。
IoTはデータの活用に注目が集まる一方で、データを取得する物理的な仕組みに問題が起こる事態はあまり想定されてこなかった。「完全にヒューマンエラーであり、スマートメーターが悪いわけではない」(同)と強調する。だが利用者からすればヒューマンエラーであれ故障であれ、使えないことに変わりはない。ヒューマンエラーだから許されるということではない。
スマートメーターで起きた発火事故は、IoTの世界も情報システムと同じく人間が介在する物理的な問題に目を向ける必要があるという教訓を残した。
(日経 xTECH/日経コンピュータ 大豆生田崇志)