【九州・山口 新年インタビュー】「エネルギー、一本足ではいけない」池辺和弘・九州電力社長

インタビューに応じる九州電力の池辺和弘社長=福岡市中央区
昨年の新型コロナウイルス禍では、電気を供給するエッセンシャルワーカーとして、高い意識で対策に取り組み、安定供給を達成できた。激甚化する災害にも他電力からの応援を含め非常にスムーズに対応でき、発送電分離で組織は分かれたが、特に問題はなかった。
未曾有の危機の中でも経営ビジョンの実現に向け、着実に歩みが進められた1年だった。昨年7月、地域戦略を展開する「支社」と、お客さまサービスを担う「営業センター」を「支店」に統合したが、非常に効果が出ている。各支店長が営業のトップに立ってやってくれている。地域でのプレゼンスを高め、「九電のあいつが言うならそうだよね」と思っていただくことが大事だ。
新規事業でもドローンや見守りサービスなどの事業拡大が進んだ。一方で、撤退したものもある。和製スマートスピーカー「QuUn」(キューン)はその一つだ。残念だが、良かったと思う。なぜなら辞める勇気がないと始められないからだ。新しいチャレンジをしたいのに、しがらみで続けるのが社員にとって一番かわいそうだ。ずっと怒られ続け、苦しいと思うと新しいものが出てこない。
「走り出しても辞める勇気を持っているんだ」と見せることが、次の新しいものを出てこさせるための大きなメッセージだ。今回の経験は、撤退したアイデアを出した社員たちの財産になっていると思う。谷底に落ちたわけではないけれど、きっと這い上がってくれる。実際、新しいアイデアを持ってきている。元気だな、めげていないな、という風に見ている。
■比率ではなく量
政府は2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すとした。「CO2マイナス80%」などとしていた時代とフェーズが全く違う。
かつては家庭用ガスや製鉄、自動車などの各産業が「自分たちは残る」と思える余地があった。しかし、「カーボンニュートラル」を目指すなら、全産業が考えないといけない。われわれのライフスタイルも変わる。電源の低炭素化という供給面のみならず、電化の推進という需要面の取り組みが重要になる。
そんな中で進められているエネルギー基本計画の改定作業では、再生可能エネルギーの「比率」が取り沙汰されている。しかし、この議論は比率ではなく、量の問題として理解する必要があるだろう。
例えば再エネ比率を40%にしたいと掲げたとして、それでは分母になる総需要、電力量の想定はどうなのか。
電化率が平成30年度の26%から50%まで上がれば、少なく見積もっても電力量は1・5倍にはなる。これは再エネの技術革新を進め、火力もCO2の回収・貯留を行った上で使い、原子力も力いっぱい伸ばしてやっと需要を満たせるかどうかの世界だ。
安価で大容量の蓄電池が完成すれば、再エネ100%は可能かもしれない。しかし安定供給に責任を持つ実務家として、「2050年にはそのような蓄電池が開発されているはずだから」として、再エネ一本足打法で行こうとは思えない。
二酸化炭素を出さない原発をできるだけ使うのはカーボンニュートラルを進める上で重要。数字をお示ししたら分かっていただけると思う。もちろん理解が深まるように情報公開もしっかりし、説明もする。
■電事連会長、気負わず
昨年3月に電気事業連合会の会長に就任したが、特に気負いなどはない。スポークスマンとしての役割は新たに生じたが、あくまでこれまで各電力会社の社長さんと議論し、進めてきたことの延長だ。電事連のスタッフは非常に優秀で、使命感にあふれている。エネルギーの供給面を強靱化する電気事業法の改正なども成立につなげるなど、しっかり機能している。
北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定をめぐり、第1段階となる文献調査が始まった。関心をいただけることは大変ありがたい。今年は住民との対話の場ができる。電事連としても国などと連携していく。最終処分地の選定まで文献、概要、精密の3段階の調査がある。対話の場では、そのような話だけでなく、町や村の将来をどうしていくか議論していくことになるだろう。
その様子が知られ、「自分たちの地域の将来がどうなるか議論できる場を提供してもらえるなら(応募しても)いいんじゃないか」と、北海道以外からも手が上がることを期待したい。
社業では(電事連会長として)どうしても東京に行かないといけないからと経営会議に出られないときもあるが、各部門をつかさどる人たちがしっかりやってくれ、思った通りに運営してもらっている。このまま進めていければと思う。
(中村雅和)
【池辺和弘(いけべ・かずひろ)】 昭和33年2月、大分県生まれ。東京大学法学部を卒業後、56年に九州電力に入社。松尾新吾社長(現特別顧問)秘書、執行役員経営企画本部副本部長、常務執行役員コーポレート戦略部門長などを経て平成30年6月から現職。令和2年3月、電気事業連合会会長に就いた。
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